日本公開1984年のアメリカ映画「スカーフェイス」は、上映当時の評価は良いものではなかったです。
まぁ〜理由は、1932年のギャング映画の古典、名匠!ハワード・ホークス監督の邦題「暗黒街の顔役」(原題はScarface)のリメイクと謳われていたのに、元映画と違いアル・カポネの話じゃないのが1つ。
トニーは、脚本のオリバー・ストーンが創作した、アル・カポネと違いフィクション。なのでアル・カポネの物語を期待した「暗黒街の顔役」ファンには、顰蹙をかったのかもしれない。
もう1つが、まだ「ゴッドファーザーPartⅢ」など製作予定もなく、まだまだ主演のアル・パチーノには「ゴッドファーザー」の1と2の、あのクールなマイケルのイメージが強かったのに、こちらの役は真逆。
他にも、1970年代の「セルピコ」や「狼たちの午後」のアル・パチーノのイメージとは、 「スカーフェイス」のトニーは、あまりにかけ離れていたので、アル・パチーノファンもびっくりしちゃった。
この2つが理由ではないでしょうかね〜。
私もリアルタイム当時、トニーの役柄は随分と粗暴で下品で(口を開けばファック!の連呼)、監督のブライアン・デ・パルマは、日本の東映実録ヤクザ映画の影響でもうけたのか?と思いました。
トニーに比べると、ビル・レイモンド演じるギャングの親分=フランクや、↓ポール・シェナー演じる更にもっとヤバいギャングの親分のソーサの方が、クールで知的でお洒落で私的には好きなタイプでした。
オリバー・ストーンは、1986年に監督・脚本の「プラトーン」で日本でも有名になりましたが、当時の日本ではまだ無名。どんな人だかわからなかったわけですが、今にして思えば実に彼の脚本ぽい(笑)。
で、このトニー、ただの凶暴で下品な男かというとそうではなく、ママと妹を愛する家族思いの男なのもミソです。
でも、久々に家に戻りママに大金をあげるも、何か悪いことやって稼いだ金だろ!親をなめるな!と金を投げ返され、トニーはママにこっぴどく叱られ追い返されちゃう。
更に、子供を暗殺に巻き込むなんて耐えられないと、結果的に親分を裏切ってしまう、子供好きなところもトニーはあり、この辺はアル・カポネが子供好きだったそうなので、参考にしてるのかしら?
でも、それ以外のトニーはほぼ凶暴で下品。親分の女エルヴィア(ミシェル・ファイファー)に一目惚れし執拗に口説くも、彼女に田舎者のバカ扱いされ続けますが、まさにその通り。
で、このエルヴィアを演じたミシェル・ファイファー、とても良いです!
この方、この後に名女優になりますが、「スカーフェイス」の頃は、少なくとも日本では殆ど誰も知らない女優でしたが、エルヴィアのクールさは惹かれるものがあります。
でも、エルヴィアもギャングの親分の女ですから、真っ当に労働をしたり社会や世の中のためになるような事などしない。彼女の興味があるものは自分磨きとメイクとファッションだけ。
エルヴィアは結果的にトニーの女になるわけですが、それでもトニーを相変わらず見下し蔑みバカにし続けます。が、高飛車に言ってるそばからコカインをやってる。
トニーにしてみたら自分は体を張ってこの生活を築いた、それなのにおまえはなんだ! とエルヴィアにブチ切れる気持ちも、男ならわかるでしょう(笑)。でもトニーもコカインをやってる。
だから、トニーとエルヴィアはバカップルで、二人には、ゴッドファーザーのマイケルとケイのような知性と教養は全くない。
トニーの妹ジーナを演じたメアリー・エリザベス・マストラントニオは、「スカーフェイス」が正式映画デビューのようで、元々はオペラ歌手を目指した舞台俳優が本職だった方とか。
で、ジーナは、兄のトニーが自分のような人間にならないでほしい、自分のいる世界の人間と関わらないで真面目に生きてほしいと思うも、血は争えないもので、こっちに来てしまう。
途中まで、成り上がりの痛快青春物語の「スカーフェイス」が、後半になるととても悲劇になるのはこれが理由です。
トニーは体を張って命をかけ、また人の命を奪って金も女も豪邸も全て手に入れたのに、ちっとも幸せじゃない。 この辺の描き方、とても上手いですね〜!
そんな生き方をしてるから敵も多いので、トニーは神経が休まらずコカイン漬け。
というわけでオリバー・ストーンの脚本も、監督のブライアン・デ・パルマもとても良い「スカーフェイス」。なかなかの名作です!