「トラ・トラ・トラ!」と「ミッドウェイ」という2本の映画について



英米仏独のスタッフ結集映画、ノルマンディー上陸作戦を描いた「史上最大の作戦」の大成功に気をよくした20世紀フォックスは、次に日米双方の視点から真珠湾攻撃を描こうとした映画を企画。

それが、日米共に1970年9月に公開された「トラ・トラ・トラ!」で、製作総指揮は「史上最大の作戦」の製作も手がけた、20世紀フォックス副社長ダリル・F・ザナックでした。

製作費は、公開直前の1970年8月と9月の読売新聞には、$33,000,000(118億8千万円)と記載された、「史上最大の作戦」の倍以上の金額になった、20世紀フォックスとしても社運を賭けた映画。

そんな「トラ・トラ・トラ!」は、日本では1971年の洋画興行収入の第6位のヒットになりました(5位は「小さな恋のメロディ」、7位が「狼の挽歌」)。

北米でも、1970年の映画興行収入の9位を記録しましたが、「史上最大の作戦」の興行収入$5010万(米国ドル)に対し「トラ・トラ・トラ!」は$3700万と、製作側としては目論見が外れた成績でした。

ちなみに、同時期に公開された同じ20世紀フォックスの戦争映画「パットン大戦車軍団」の興行収入は$4500万ですから、ダリル・F・ザナックの当時の気持ちは推して知ることが出来ます。


で、当初は「トラ・トラ・トラ!」の日本側監督予定だった黒澤明監督の降板は、諸説諸々ありますが、その辺はあまりに有名な話なので、ここでは省略させていただきます。

監督が誰であろうが、製作側の興行収入の目論見が外れたとしても「トラ・トラ・トラ!」は、真珠湾攻撃に至るまでの日本の葛藤がとても良く描かれている力作、良作です。

2001年のアメリカ映画「パール・ハーバー」も、CG含め真珠湾攻撃の描写は素晴らしいですしヒットしましたが、この映画の日本側の描き方は、如何にも昔ながらの伝統のハリウッド日本観でお粗末すぎ。 

ここ行くと、流石に!「トラ・トラ・トラ!」は、膨大な資料に目を通した降板前の黒澤明氏、小国英雄氏、菊島隆三氏の電話帳ぐらいはあったと言われる脚本が秀逸なので、その辺は流石にまともです。
 
日本側の監督は黒澤明氏降板後、舛田利雄氏と深作欣二氏に代わりましたが、お二人ともきちんと撮っており、「パール・ハーバー」しかりの、ハリウッドのありがちな不思議な国日本描写がないのが良い!

アメリカ側のハズバンド・キンメル大将を演じた名優!マーティン・バルサムも、山本五十六長官を演じた山村聰氏も、とても良いですし、他の俳優陣も日米ともに皆さんとても素敵です。


が!しかし!それは日本人の言い分、、、

トラ・トラ・トラ!」は、アメリカが奇襲攻撃とはいえ、ほぼ日本に一方的にやられる実話。あの!アメリカ人たちが喜ぶ話ではないし、時はベトナム戦争泥沼の真っ最中でアメリカ国内は厭戦気分。

しかも「トラ・トラ・トラ!」は、真珠湾攻撃前のアメリカの危機管理の杜撰さ、情報隠蔽の闇を見事に描いてるうえ、長い映画のわりにアクションシーンは後半だけでそこに至るまでの話が中心です。

更には日本の一斉攻撃以前に、アメリカの駆逐艦ワードが日本の特殊潜航艇を発見し、砲撃および撃沈してるシーンまで導入されているので、先に攻撃したのは実はアメリカだとわからせちゃってる。

また、当然ですが日本人は日本語を喋り、あちらでは英語字幕がついたでしょう。あの!アメリカ人達が面倒臭い字幕など喜ぶわけがないし、繰り返しますが物語は後半に至るまではほぼ会話劇!

英語で喋るアメリカ側の会話劇は良くても、字幕がつく日本語での会話劇を、あの!アメリカ人たちがどう思ったか?現代人でも日本人として、推して知るところでしょう。

よって、「トラ・トラ・トラ!」はそれなりにヒットしましたが、「史上最大の作戦」並みかそれ以上の興行収入を目論んでいた20世紀フォックス皮算用とは、かなり違ってしまったと思われます。

建国200周年のアメリカは、やっぱり勝ち戦の「ミッドウェイ」!


さて、それから6年後のアメリカ建国200周年の1976年。20世紀フォックスが莫大な製作費と時間をかけた「トラ・トラ・トラ!」を鑑みたユニヴァーサル映画が、同じような戦争大作映画を作りました。

それがアメリカの圧勝、日本のよもやの惨敗のミッドウェイ海戦の映画 「ミッドウェイ」でした。 

トラ・トラ・トラ!」 は、意図的にハリウッドの名のある大物スターは避け、通好みの演技派俳優の配役陣だったのに対し、「ミッドウェイ」は名前と顔でお客さんが呼べるチャールトン・ヘストンを起用。

当時のチャールトン・ヘストンは「猿の惑星」のテーラー役は勿論、前年にはパニックもののヒット映画「エアポート75」「大地震」で共に主役をはった、ハリウッドの人気スターでした。

で!このチャールトン・ヘストン演じたアメリカ空軍のマシュー・ガース大佐は、架空の人物なのが、史実に忠実だった「トラ・トラ・トラ!」と、「ミッドウェイ」の製作意図の違いがはっきりわかります。

そして、実在のチェスター・ニミッツ大将役はヘンリー・フォンダ。レイモンド・スプルーアンス少将役にはグレン・フォードの共に名優を起用。日本の山本五十六長官には「世界のミフネ」三船敏郎氏!

物語に重要な役とも思えない軍人役にも、ロバート・ミッチャム、ロバート・ワグナー、ジェームズ・コバーンと、名前と顔の売れている俳優を揃えた「ミッドウェイ」は、見事なオールスター映画でした。

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物語も「トラ・トラ・トラ!」では全く描かれていなかった、戦争で引き裂かれるロミオとジュリエット、フィクションの恋愛物語もチョイスする、娯楽作に仕上げています。

まぁ〜結局、チャールトン・ヘストン演じた架空の大佐は、このロミオとジュリエットのロミオ、トム・ガース(エドワード・アルバート)のパパなわけで、これがフィクションのメロドラマ。

しかも!三船敏郎氏は勿論、南雲忠一中将を演じたジェームズ・繁田氏はじめ日系アメリカ人に英語で喋らせる(三船敏郎氏はポール・フリーズの吹き替え)、アメリカ人に字幕を読ませない大サービス。

ちなみに三船敏郎氏の吹き替えをやったポール・フリーズは、「トラ・トラ・トラ!」では島田正吾氏演じた野村吉三郎駐米大使の英語セリフを吹き替えた、有名なアニメの吹き替え等をやられてた方です。

まぁ〜、ジュリエットの佐倉春子(この名前よな〜笑)を演じたクリスティナ・コクボは、とても美しい方だったので、男としてはそこは良しとしましたが、私的にはこれ、いらないメロドラマでした。

結果「ミッドウェイ」は、製作側の目論見通り、1976年の全米映画興行成績の10位とはいえ、興行収入$4300万は「トラ・トラ・トラ!」 を上回り、日本でも1976年の映画興行収入は3位の大ヒット!



が!しかし、、、

内容は、「トラ・トラ・トラ!」同様、開戦当初のアメリカ軍、アメリカ兵の練度が極めて低いのは「ミッドウェイ」でもコミカルに描かされてますし、日本の零戦の圧倒的な強さも見事に描かれてます。

が、「ミッドウェイ」、作りが雑で当時観ても後から何度か観ても、いまいちな映画。

なんたって、ミッドウェイ海戦とは無関係な他の戦域の実写フィルムや、「トラ・トラ・トラ!」含む他の映画からの流用映像が頻繁に出てくるし(132分の映画の中で39分以上!)、それが素人でもわかる。

まぁ〜この辺が、製作費が莫大になった20世紀フォックスの「トラ・トラ・トラ!」のようにならないようにと、ユニヴァーサルが製作費を抑えた企業努力なのでしょうが、映画ファンとしてはちょっと痛い。

また、当時の戦争映画はドイツ兵が英語喋ってるますから、日本兵の英語は良いとしても(兵隊が母国語を喋る「史上最大の作戦」と「トラ・トラ・トラ!」が異例だった)、なんだかな〜なんですよね〜。

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最後にチャールトン・ヘストン演じたチェスター・ミニッツ大将が、この戦いに勝てたのは「運が良かった」と述べてる通り、真珠湾攻撃で空母以外ほぼ全損していたアメリカ太平洋艦隊。

トラ・トラ・トラ!」ではマーティン・バルサムが演じたハズバンド・キンメル大将は、その責任をとらされ即!解任。後任の太平洋艦隊を任されたチェスター・ミニッツ大将は、実は最初から窮地でした。

しかも、飛び立ったアメリカ軍用機は、日本の零戦に相次いで撃墜され手も足も出ないうえ、連合艦隊を探してるアメリ爆撃機も練度が低いので迷子になってしまい、ガソリン切れ寸前。

引き返そうとしたその時、雲が切れ眼下に見えたのが日本の連合艦隊という、アメリカ軍は練度も低く、けっこうマヌケだったけど運が良かったから勝てたという描き方は、実に素直で正直で驚くほどです。

なので、ヘンリー・フォンダ演じるミニッツ大将やグレン・フォード演じたレイモンド・スプルーアンス少将の、苦悩や葛藤とても良く描かれてますし、流石名優を感じさせる、この辺はとても良い映画。

唯、後に2011年の「聯合艦隊司令長官 山本五十六」で描かれてますが、今度も日本の楽勝とアメリカを舐め切って、隊列組んで威風堂々と乗り込んでいった連合艦隊の思い上がりの描き方が、少し弱いです。

この思い上がりの描写が、もっとあった方が、結果的に日本は惨敗するのですからアメリカ人も喜んだでしょう。なので、ちょっと日本軍の傲慢とマヌケぶりの描写が弱いのが難点ですかね〜。

勿論、日本の連合艦隊の有名なドタバタぶりもよく描かれてますし、一撃喰らってからのボロ負けぶりも文句のつけようがないですが、なんかイマイチの映画なんですよね(私的感想です)。

トラ・トラ・トラ!」のような、観るたびに新たな発見があるとかも、「ミッドウェイ」はないですし。