伝説の「江夏の21球」には、第二戦の江夏投手リリーフ失敗の伏線があった!

近鉄バファローズが、球団史上始めてリーグ優勝するのは1979年。

1969年の首位争いで、近鉄を振り切って優勝した時の阪急ブレーブスの監督だった西本幸雄監督が、近鉄の監督に就任して6年目のことでした。

この年の近鉄打線は、元祖「いてまえ打線」。

37本塁打本塁打王を獲得したマニエルを4番に、32本塁打の栗橋茂氏が3番、全レギュラー選手が本塁打10本以上放っており、チーム打率.285、チーム本塁打195本は共にリーグ1位。

防御率2,49で1位の山口哲治氏を筆頭に、5位に太田幸司氏、6位に村田辰巳氏、9位に井本隆氏と4投手も防御率トップ10に入る、チーム防御率も3,70でリーグ1位の、堂々の!完璧なパリーグ初制覇でした。

相手のセリーグ優勝チームは、2度目の優勝の古葉監督率いる広島東洋カープで、共にどちらが勝っても初の日本一!

第一戦はシーズン15勝の、この年のエース井本隆投手が完投して近鉄5対2で勝利。第二戦は近鉄の顔、この年は10勝とやや不調だった鈴木啓示投手が意地の完封で、近鉄4対0と連勝しました。

注目すべきはこの第二戦は7回裏まで0対0で、それまで広島東洋カープ山根和夫投手はノーヒットピッチング。

が、小川亨氏に初ヒットを打たれ、次の主砲!マニエルとの対戦がツーボールになったところで、古葉監督、ピッチャー交代。セリーグ MVP、抑えの切り札!江夏豊投手を投入してるところです。

近鉄バファローズは、ピンチランナーに俊足の藤瀬史朗氏を送っており、第七戦の例の伝説の「江夏の21球」と同じ展開なのに、ちょいと注目。

マニエルは江夏豊投手からヒットを放ち、俊足の藤瀬史朗氏は三塁まで行き無死1,3塁とチャンスを広げました。

そしてファーストランナーもマニエルに代わり阿部成宏氏を代走に送り、ここで西本幸雄監督、栗橋茂氏に代わって代打アーノルドを送ります。

正に!第七戦の「江夏の21球」と同じ試合展開なんです!

アーノルドは期待に応えセンターに犠牲フライで先制点。羽田耕一氏もヒットと続き2点目。最後は有田修三氏がツーランホームランと江夏豊投手を打ち崩し4点を奪い、そのまま4対0で近鉄連勝。

広島の古葉監督は、第二戦で継投に失敗し試合を落としてます。

 

また、前回リーグ初優勝時の対阪急ブレーブス戦含め、広島はこれで日本シリーズ6連敗(2引き分け)。日本シリーズに対する嫌〜な感じが、広島側にあったのは間違いないでしょう。

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まぁ〜流石に江夏豊投手ですので、中一日おいての第三戦は3対2と広島カープが7回裏に逆転。8回表から登板し、2回を1安打無失点で抑えシーズン初セーブ。

江夏豊投手のこの次の登板が、例の!「江夏の21球」の第七戦で、4対3の1点差の厳しい試合の7回途中からで、無難に7回を締め8回も三者凡退。

ところが、9回に例のドラマが待っていました。

ノーアウトから第二戦で江夏豊投手を打っている羽田耕一氏がヒットを放つと、西本監督は第二戦でホームに先制で帰ってきた足のスペシャリスト!藤瀬史朗氏を代走に送ります。

バッターは、第二戦で三塁ランナーの藤瀬史朗氏を犠打でホームに返したアーノルド。

おそらく西本幸雄監督もコーチも、そして近鉄ナインも、試合展開が全く同じだった第二戦で江夏豊投手を攻略したイメージが、きっと蘇っていた事でしょう。

そしてアーノルドの5球目に藤瀬史朗氏が走り、キャッチャーの水沼四郎氏の送球はショートの高橋慶彦氏と息が合わずセンターに抜け、俊足の藤瀬史朗氏は一気に三塁!

第二戦は無死1、3塁からアーノルドが犠打を放ちサードから藤瀬史朗氏が先制ホームインし、その後に江夏豊投手は崩れ負け投手になっていますから、両軍ベンチもナインも第二戦を思い出さないわけがない。

アーノルドの敬遠気味の四球は、広島ベンチも江夏投手も「嫌な予感」がしたからでしょう。

俊足、藤瀬史朗氏なら浅い外野フライでも同点のホームが踏めるし、シーズン17本塁打のアーノルドなら、第二戦と同じで犠打も打てる確率は高い。

アーノルドを歩かせたのは、広島ベンチとしても当然の作戦だったでしょう。

そして西本監督は一塁のアーノルドにかえ、こちらも足のある吹石徳一氏(吹石一恵さんのパパ)を代走に起用。

足のあるランナーが1、3塁なので、ロングヒットが出たら逆転サヨナラで、近鉄バファローズが球団創設以来初の日本一!

押せ押せの近鉄ベンチ、次打者の平野光泰氏の3球目に吹石徳一氏が盗塁。キャッチャーの水沼四郎氏、やはり人間ですから先ほどのセカンド送球の嫌な感じがあったのでしょう。

もし送球が外れたら、確実に!俊足の藤瀬史朗氏はホームに帰ってくるし、吹石徳一氏もサードまで行くのも確実。水沼四郎氏はセカンド送球せず、ノーアウト2,3塁。

一打逆転サヨナラの、江夏投手大ピンチ!

ここは満塁策しかないですから、平野光泰氏も歩かせノーアウト満塁。近鉄はこの大チャンスに代打、シーズン18本塁打、打率.320、昨年は首位打者を獲得している佐々木恭介氏を送ります。


しかし、そこは百戦錬磨の江夏投手、近鉄ベンチ期待の佐々木恭介氏を見事に三振にきってとり、この三振がきいてます。

今の今まで「勝った!」と思ってた近鉄ベンチ、この三振で(流石は江夏)と、今度は第三戦の江夏豊投手に抑えられた悪い記憶が蘇ったでしょう。

ましてや江夏投手はコントロールが良いので、暴投も牽制悪送球も可能性は低い。

次打者の石渡茂氏も、この年はシーズン打率.281で11本塁打近鉄いてまえ打線」の一角でしたので、一打に期待できないわけではない。

でも、佐々木恭介氏もプレッシャーがあったのでしょう、西本監督は強気に打っていけという指示だったそうですが、積極的とは思えない打席は、あえなく三振。

それでもまだ!西本監督は強気に打っていけという感じだったそうですが、打席の石渡茂氏も1球目の変化球を見逃して1ストライク。

佐々木恭介氏でも打てなかったのだから、石渡茂氏は江夏投手に抑えられちゃうかもしれないと、ここで西本監督は弱気になったのでしょう。石渡茂氏への2球目、近鉄スクイズのサイン!

キャッチャーは立ち上がり、江夏投手の球も大きく外に外れ、石渡渡氏は飛びつくが空振り。スクイズ失敗。

近鉄はランナー全員が足のある選手でしたし、サードランナーの藤瀬史朗氏、もうホーム直前まで来ていたので、石渡茂氏が当てて転がしてさえしていれば、その瞬間に同点のホームイン確実でした。

スクイズ失敗の空振りに慌てた藤瀬史朗氏、サードに戻ろうとしましたが、サードには既に足のある吹石徳一氏がきてしまって戻れない。

藤瀬史朗氏タッチアウトでツーアウト2,3塁。

それでも2,3塁ですから、まだ一打逆転サヨナラですが、それを思った人は球場もテレビの前の人も、いなかったでしょう。人間の心理というのは面白いものです。

私も、あのスクイズ失敗でこの試合は終わった。石渡茂氏は三振だろうと、素人ながら思いましたね〜。だってピッチャーは、あの!江夏豊投手ですから。

そして結果はその通りになり、広島東洋カープは球団創設以来初の!日本一!

近鉄バファローズ、無念の敗退でした。